桜の季節がやってくると…

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感謝

暖かくなったかと思えば、寒の戻りに震える日もあり、まさに三寒四温を繰り返す日々がようやく落ち着いて、桜花爛漫の春がやってきた。

今年の桜は、とりわけ豪華だ。

まるで競い合うように咲き誇り、どこへ行っても見事な桜に出逢える。

祇園白川から木屋町を歩き、佛光寺、東一口、石清水八幡宮、さくら公園…。

それぞれに趣があり、春の訪れを五感で感じさせてくれる。

中でも、東一口の桜は、私達にとって特別な場所でもある。

母と最後に見た桜がここだった。

あれは亡くなる年のある晩のことだった。

夕食を囲んでいたとき、母がふと何気なくつぶやいた。

「毎年この桜で見納めか…と思いながら、眺めている。」

そして続けて、

「今頃は夜桜が綺麗やろうなぁ…」と。

その言葉を聞いた夫が、すっと立ち上がり、

「じゃあ、今から行こう。」と言った。

母は「えっ、今から?!」と驚きつつも、嬉しそうな笑顔を見せた。

そうして私たちは、母を連れて東一口へ向かった。

川を挟んで両岸に植えられた桜は、ちょうど満開。

月の光とぼんぼりの灯りに照らされた夜桜が川面に映り、それはそれは幻想的な美しさで、言葉にならなかった。

母は静かに、その光景を見つめていた。

やがて、ゆっくりと噛みしめるように、

「ありがとう」と母が言った。

その一言に、母の思いのすべてが込められていた。

桜の季節がやってくるとあの夜を思い出す。